陥没から転落まで、わずか3.57秒――。
ドライブレコーダーが記録したその瞬間を見れば、ドライバーが穴に気付いてから落ちるまで、考える間もなかったことが分かる。
八潮市の道路陥没事故から11日目。いまだ現場の復旧は難航している。
当初、穴の幅は約8メートルだった。しかし、テレビやSNSで報じられる映像では、すでに40メートルを超え、もはや「穴」とは呼べず、乱雑に広がる地下空間の様相を呈している。
報道で直径8メートルの穴を見たとき、ふと頭に浮かんだのは、フランス五月革命時のスローガンだった。
「石畳の下には砂浜がある(Sous les pavés, la plage)」
広義の意味で、我々の現代社会もまた「砂上の楼閣」なのではないか――そんな感覚に襲われた。
10日以上が経過しても、いまだドライバーの救出は難航している。下水道管やガス管を含む現場の構造・断面が詳しく説明されるようになり、事故の深刻さがより明らかになる。
そんなニュースを見ながら、ふと懐かしい映画のタイトルが頭に浮かんだ。
アンジェイ・ワイダ監督の『地下水道(Kanał)』。
詳しいコンテンツは忘れているが、ポーランド兵がドイツ軍に追われて地下水道に入って脱出を図るストーリーだった。
個人的には、この映画の翌年に発表された『灰とダイヤモンド(Popiół i Diament / Ashes and Diamonds)』の方が好みだ。
どちらの作品も昔に観たきりなので、改めて見直してみようと思う。
閑話休題。
八潮市の現場では、下水道を流れる水の勢いへの対処と、地盤の安定性の判断が最大の難題のようだ。
TVの現場解説者のひとりに、話し方・説明内容・態度のすべてにおいて信頼できる人物がいる。
田中章氏。元・東京消防庁特別救助隊のスペシャリストだ。
ボックスカルバート(地下構造物)の崩落リスクや地盤の安定性が確認できるまで、数十名の救助隊員は待機を余儀なくされ、いまだドライバーの救出に取り掛かれない状況が続いている。
田中氏の何気ない説明を聞いて、思わず目頭が熱くなった。
「救助隊の心は、はやっているはずです。救助したくて救助隊に入っているのですから」
一刻も早い救出を願うばかりだ。
A designed manhole found in Chichibu City